ー講演や研修で十分と思っていませんか?ー
・「企業の健康経営に、何故ヘルスリテラシー向上の教育が必要なのか?」
・「ヘルスリテラシー向上の有無で、医療を受ける際、何が変わるのか?」
・「外部機関の研修や産業医の講演だけで本当によいのか?」
こんな疑問をお持ちの経営者、人事労務担当者の方も多いのではないでしょうか。
このページでは、これらの疑問に対する答えが見つかるよう、実際の医療現場で治療を行ってきた医師の立場から、わかりやすく説明いたします。
このページの対象は・・・
1.健康経営銘柄・健康経営優良法人の認定を既に取得、または取得を目指している企業の経営者、産業保健担当者
2.健康経営銘柄・健康経営優良法人認定基準にあるヘルスリテラシー向上に取り組んでいるが、研修や講演だけで済ませている企業
3.これから健康経営を実践したいと考えている企業の経営者、人事労務担当者
4.ヘルスケアの現場で必要となるスキルについて学びたい社員の方々
以上の方を主な対象としています。
内容に関しては、当社ジャパンケアコンサルタンツの医学博士、専門医、労働衛生コンサルタント、薬剤師、正看護師らの意見を基にしています。
医学は、学問的に簡潔に分類すると、臨床医学(内科・外科など)と基礎医学(解剖学・免疫学など)に分けられます。健康経営に最も関係のある産業医学は、臨床医学の1つとされています。当社の医師は皆、20年以上にわたって患者さんと直に接し、治療を行ってきた経験のある臨床医学の専門家です。そして、産業医の資格も有しています。
それでは、本題に入ります。
働き方改革の推進、そして社員の健康を守るために、多くの企業で、健康経営実現のための、システムが構築されています。社員の健康維持のために、社内で運動や休息のための設備を整えたり、健康状態のモニタリングができるようウエアラブル端末・アプリなどの備品を支給したり、外部機関の研修・セミナーを導入したりと、ヘルシーカンパニー実現を図る動きは留まるところを知りません。
現在、健康経営優良法人認定項目の1つである、社員のヘルスリテラシー向上に、多くの企業が取り組んでいます。それに伴い、多くの医療機関や企業のサイトで、健康経営が取り上げられるようになり、工夫を凝らして説明されています。
ヘルスリテラシーを定義する際、医師の立場から、欠かせないと考えるのは、
1.健康管理の正しい知識を持つこと
2.自分の健康状態について、正確に理解していること
3.健康に関する情報を適切に判断すること
4.自らの健康上の課題に対して、正しく意思決定できるようになること
以上です。
健康知識向上のために、社員に産業医の講演などを受けさせて対応する企業が、多く見られるようになりました。
その他、ゲームやアプリの開発等、多様な手法を取り入れ、独自にユニークな対応をする企業が出てきたことは、健康管理の概念を多くの人に認知してもらう点で、とても好ましいトレンドだと思います。
しかし、大切なことを1つ指摘します。
社員にとって、実際にヘルスリテラシーが最も試される場面は、自分自身または家族の健康状態に何らかの問題が生じ、医療を受ける時です。
社員が、どんなに講習やセミナーなどの受講機会を企業から与えられても、健康維持のための予防、治療の知識、さらには自身が医療を受ける場面で活用できるものでなければ、実際の医療現場において応用できず、絵に描いた餅で終わってしまいます。これでは、せっかくの健康投資が、勿体無いのではないでしょうか。
臨床医の立場から指摘すると、実際に医療を受ける際に役立つ知識を社員が身に付けない限り、本当の意味で健康投資が有効であったとは言えないように思います。
では、何が必要なのか?
1.まず大切なことは、医師や医療機関の良さを最大限に引き出す、良好な医師・患者関係を築けるような、コミュニケーションスキルを身に付けて欲しいという事です。
2.次に大事なのは、医療情報を適切に判断できるようになることです。
これらを意識することで、社員の健康投資は、必ずより意義のあるものになることでしょう。
会社の健康診断で、正常範囲を逸脱した検査結果を指摘された際。体調不良で、初めて医療機関を受診する場合。高血圧など慢性疾患で、既に定期的に医療機関を受診中の場合・・・・。
限られた時間で、有効なコミュニケーションをとることは、医師にとっても患者さんにとっても、双方にとって有益です。
具体的に、医師の問診のケースで見てみましょう。
内科・外科など受診科目に関係なく、医療は全て問診で始まります。全ての医師は、この問診を基に検査・治療方針を決定します。医療を受けるにあたって、最重要なプロセスと言っても過言ではありません。
初めて医療機関を受診する初診の際、医師が患者さんに聞くことは、
・主訴(最も気になり、受診するに至った症状)
・現病歴(症状がいつから始まり、どのように推移しているか)
・既往歴(過去にかかった病気など)
・家族歴(両親・祖父母・兄弟などが、治療していた病気)
などです。
家庭医、そして各科専門医は、これらを手掛かりに診断を進め、治療を行います。
さて、皆さまは、これらの問診事項にどのように答えられますか?
急性の疾病、例えば感冒による咳や喉の痛み、腹痛などの症状で受診する場合は、経過が短いので、簡単に説明できるでしょう。
しかし、慢性疾患(何年もの治療経過を有する疾病)に関しては、正確に説明することができない方が、大勢いらっしゃいます。
これには、いくつかの要因があります。1つには、日本では多くのケースで、検査や治療行為に関して、「医師任せ」「病院任せ」になる傾向があるということです。
一部の医療経済学者は、「医療費の負担は、上昇傾向にあるとは言うものの、国民皆保険の下、全額自己負担とはならないため、病院窓口で支払う金額は諸外国に比べて相対的に低く、コスト感覚が薄くなりがちである」ということを、指摘しています。
高額療養費制度のある保険診療に対して、美容外科やインプラント等の歯科治療では、一回の治療で数万円~数十万円以上の負担のあるものはざらにあります。このような場合、全額を自己負担される患者さんは、コストに見合うだけの治療効果があったか否かに対して、かなり神経質になります。
一方で、内科や外科での治療になると、医療のことは難しくてわからない等と、あまり自分の意見を言わない方が、数多くいらっしゃいます。
中には、「主治医を信頼しているから、全て任せている」という方もおられます。信頼できる医師・患者関係は、当社で最も重要視していることであり、医師と良好な関係を築くことは、非常に大切なことです。
しかし、治療に関する不安、自分の考えや希望を、かかりつけ医に話すことによって、より良いアウトカム(治療結果)につながることは多々あります。
医師は医療に関する専門家です。しかし一方で、患者さんの考え・価値観・生活環境全てにおいて、一番詳しく認識しているのは、他でもない患者さん自身なのです。
当社の医師は、これまで多くの外国人の診療経験があります。日本人の患者さんとの大きな違いは、外国人の方は医療機関を受診した際、必ず質問をするということです。それに対して、日本人の患者さんは、医師への気遣いからか、あるいは遠慮してか、あまり質問をしない傾向があります。
日本の病院やクリニックの医師は、基本的に皆、忙しく、時間に追われています。しかし、患者さんのことをもっと知りたいと考えている医師は、実はとても多いのです。
「担当医に自分の意見をはっきり伝える」
これが、実践的ヘルスリテラシーを習得する上で、最も大切なことです。
高血圧・脂質異常症(以前は高脂血症と言われていました)・糖尿病などの生活習慣病だけでなく、がん等の慢性疾患の治療は、以前は使用される薬など、治療法が限られていました。しかし、医療の目覚ましい進歩に伴い、治療の選択肢は多岐にわたるようになりました。
例えば、がんでも治療戦略は多様化し、ステージ(がんの進行度)の進展とともに複雑化するようになりました。そして、臓器や部位にもよりますが、効果的な治療法の下、がんの5年生存率は、上昇傾向にあります。
結果として、かつて不治の病と言われた、がんの治療をしながら、仕事をする方を多く見かけるようになりました。言葉を変えれば、がんと共に生きる時間が、長くなったということです。
多くの企業従事者の方が、種々の慢性疾患を抱えながら、勤務される時代になったのです。
情報の非対称性という言葉があります。
ある価値の需要側と供給側で、所有している情報の質や量の差のことを言います。医療費の高騰や、一般の人にとっての医療の難しさの要因として、よく挙げられます。
この差は、医師と患者さんの間で大きいことはよく知られています。しかし、現代医療は、内科・外科など全ての領域で高度化し細分化されるようになり、最近では、専門科目の違いで、医師間でさえも情報の非対称性が広がってきています。さらに、日本は医師免許が更新制でないため、同じ科の医師同士であっても、知識のアップデートをしている医師とそうでない医師の間において、深刻な差が見られています。
ゆえに「全て医師任せ」のスタンスから脱却し、患者さん自身が、自らの医療に主体的に関わる必要があるのです。
「何故その診断なのか?」
「他の病気の可能性は?」
「何故その薬がよいのか?」
「他の治療薬はあるのか?」
こういった質問をすることは、とても重要です。
患者さんが医師に、自分が思っていることをしっかり伝え、自らの医療に主体性を持つことができれば、医療の結果に対する満足度は必ず良くなります。
また、情報の非対称性の他、医療の難しさの1つに不確実性があります。
同じ投薬、同じ手術を、同じ医師から受けたとしても、患者さんによって、必ずしも同じ結果とならないということがよくあります。
だからこそ、後々後悔することのないよう、自分の受ける治療は、自分が納得したものでなければならないのです。
ヘルスリテラシー向上の目指すところは、実際に治療を受ける際に役立つ実践的なものであるようにと考える理由です。
実際には、ないことを祈るばかりですが、将来、財政の問題などで国民皆保険のカバー範囲が縮小した際、あるいは自己負担割合が、現在の3割から引き上げられる時など、実践的なヘルスリテラシーを身に付けておくことは、健康面のみならず、家計面においても、自らの生活を守ることに直結するものと思います。
当社に寄せられる質問は、
「病院で検査の説明を受けたが、よく理解できなかった」
「何年も投薬されているが、いつまで治療が続くのか主治医が教えてくれない」
「薬が合わないのに主治医が変えてくれない」
「父母が何種類も薬を飲んでいるが、大丈夫か」
など、多種多様です。
氾濫する医療情報の中、かかりつけ医と良好な関係を築けていない患者さんが増えているようです。
一方医師も、全員がコミュニケーション上手なわけではありません。さらに、病院勤務医も開業医も皆、多忙です。「じっくり説明したくても、十分な時間がとれない」と言われる医師はとても多いのです。
当社では、経営者、社員、そしてご家族の方が現在受けている治療に関する疑問に対して、主治医の考えの補足、あるいは確認すべき事項を提供しています。
実際に治療を受けるに際して抱く疑問に、自ら向き合い解決することが、本人のヘルスリテラシー向上に最も寄与するからです。
当社では、より良い患者中心医療が実現するよう、実際の医療現場で役立つコンサルティングを行っています。
医療を受ける上で最も大切なことは「信頼できる、かかりつけ医を持つこと」と言っても過言ではありません。治療中の病気だけでなく、日常生活における健康上の悩み疑問を相談できるようにしておくことは、予防にもつながる大切なことです。
多くの方は、良好な医師・患者関係を築けていると思います。しかし、中には、かかりつけ医との関係に不満を持つ人も多くいらっしゃるのが、現状です。
どうすれば良好な医師・患者関係を築けるのでしょう。
「テレビに出ている」「たくさん本を書いている」・・・等々。
有名な先生だから、受診する。あるいは、病院ランキングで上位だから受診する。
という方もいらっしゃるかもしれません。
こういった場合、患者さんにとって「よかった」と思える場合もあるでしょうし、そうでない場合もよく見られます。さらに、病院ランキングで上位の最新機器が揃った医療機関を受診したとしても、患者さんの満足度は、担当する医師によって違いが出ることもあります。
つまるところ、自分にとって良い医師か否かは、自分で吟味し、判断するものなのです。
同業である医師から見ても、他の医師の学会発表や論文は知ることができても、患者さんに対する態度は実際の診療現場を見なければわからないものです。
ただ、同じ医師から見て「こんな先生になりたい」と思わせる良い医師は、患者さんとのコミュニケーションを重視して、治療の根拠もしっかりと説明される先生方です。また即答できないことがあったとしても、誤魔化さずにはっきりと「わからない」と言え、それについてきちんと調べてくれる医師も信頼できると思います。
現代医療の進歩の速度は凄まじく、いついかなる時も、全て網羅している医師は、存在しないと思います。「調べる」ということも、医師の大切な能力なのです。基本的に、全ての患者さんにとって完璧な医師というのは、いないと考えた方がよいかもしれません。
信頼できる、かかりつけ医を見つけるため。そして、自分にとって最良の医療を受けるためにも、患者さんは、コミュニケーションスキルを身に付けることが大切だと思います。
何でも医師任せにするのではなく、自らにとって最適な医療を、医療機関そして担当医から引き出せるようになることを目指してください。
最近は、雑誌その他でも「血圧の薬は飲まないほうがよい」「コレステロールの薬を飲むと害がある」「健診は受けてもしょうがない」「がん検診は意味がない」等、多様な特集が組まれ、関心のある人も多いと思います。
これらは全て、医学的にはエビデンスで説明ができます。
しかし、実際の答えは、患者さんそれぞれの価値観や考え方によっても異なってくるのだと思います。
大切なのは、偏った論調に盲目になり、振り回されることではなく、自分でも納得のいくように調べ、主治医に聞いて、自分で判断することだと思います。
患者さんが納得していないのに、薬が処方されても、多くの場合は、投薬の中断につながります。大切なことは、「医学は難しいから」と思考停止になってはいけないということです。
では、どのように調べればよいのでしょうか。
医師や看護師などの医療従事者と異なり、一般の方は、必要とする医学書や専門誌をなかなか容易には入手できません。医療情報を知りたい時には、インターネットで検索することが多くなります。
しかし、近年、社会問題にもなりましたが、これらの情報は信頼できるものもあれば、全くのデタラメと言ってよいものまで存在します。これらを判断できるようになることも、ヘルスリテラシー向上の目的です。
例えば、グーグルでしたら、グーグルスカラーと入力してみてください。そして、グーグルスカラー(Google Scholar) のサイトから、調べたい疾患名を入力してみてください。多くの学術系の資料が、確認できます。
また、情報量は英語の方が圧倒的に多いので、英文を読むことに抵抗のない方でしたら、英語版でも検索されるとよいでしょう。
さらに詳しく調べたい時には、医学・生物学分野検索サイトである、パブメド (PubMed) というサイトもあります。
また、がんについて調べたい時には、国立がん研究センターが提供する「がん情報サービス」なども参考になると思います。
現代の医療は、Evidence-Based-Medicine (EBM) といって、きちんと専門家により効果が証明されたものが標準治療として、適用されています。実は、このエビデンスにもランクがあり、レベルが高いとされる無作為化比較対照試験といわれるものから、比較的低い症例報告といわれるものまで、様々です。
「情報源が、専門の研究機関・医療機関など信頼できる発信元か否か」ということは、とても重要なので、必ず確認するようにしてください。
よく「・・・という薬を飲んだら、がんが消えた」とか、「・・・という治療を受けたら、治った」という情報があります。解釈には、十分な注意が必要です。
しかし、病気と闘っている患者さんにとって、このような情報に目が行くのは、当然のことです。ですから、気になる情報は、直接、担当医に見せてもよいと思います。
本やサイトで得た情報であっても、それを直接医師に見せて相談することは、とても意義があります。患者さんの希望や考えを知ることができるからです。
医療情報の判断に迷った場合、難しいと感じた場合、気になる情報については、担当医に聞くのが一番です。きちんと自分が調べた情報を基に、医師に質問することは、とても意義のあることです。